朝茶

 豊後高田の「光厳寺」に、
朝茶のお招きをいただき出かけた。
八月二日の新しい朝が明けたばかり。
お寺の露地は清らかで心も洗われる。
待合の机には短冊と筆が置かれ、
朝露を溜めた葉から雫を硯に流し入れて
五人の客それぞれが歌を詠み、
掲げられた笹竹に紙縒りを結ぶ。
梶の葉が涼しく水に浮く。
床には錦の紐を通した木組みが香炉を囲み、
着物を被い掛けて香を焚き染めたであろう
昔の様子を髣髴とさせる。
 和歌の堪能なご亭主様の隅々まで行き届いたご趣向に
きっとご亭主の前世はお公家様の姫・・・・
そう思い込んでしまうのは、その洗練された趣ばかりではない、
名品のお道具もさり気なく、美しく雅なお点前に
ご亭主の生まれ持っておられる「華」を感じるからである

 お茶事が終わり、今日のお詰の大役を仰せ付かりながら
この空気に酔ってか、ぼんやりしていた自分を反省しながら、
また感動を反芻しながら露地を出るとそこには、
虹彩の背が美しいハンミョウ二匹が足元に。
ご亭主様が来られて「今ここにハンミョウが・・」と私が
声を出したとたんに二匹とも姿を消していた。
 通称”道教え”と呼ばれるハンミョウが、
お茶の師匠が亡くなられて久しくお茶に迷いの
出てきた頃の私に示してくれたのは・・・
何か不思議と安堵感のような感情が私の心の中を
静かに満たした。
 そう、これからも尊敬する今日のご亭主の寺庭様に
ただただ付いていこうと深く思った。