赤い糸

一年前カンボジアを旅した時に訪れたアンコールワット遺跡の中で、
旅行者達のいない場所にひとり迷い込んでしまった。
神々のレリーフに押されるようにずんずんと進んでいくと、一人の老人に出会った。
目の前に現れて座り込んだ私に柔和な顔でその老人は、
私の頭の上に数枚の木の札を当てて札の間に鉛筆のような木の棒を挿し
そこを開いて札を読み始め、そして私の右手に赤い糸を結んだ。
「この糸が切れるまで仏様が守ってくれるだろう」とカンボジア語
言ったような気がした。
日本に帰ってからその糸は洗濯の時も、湯に浸かる時も、
ロクロを回す時にもしっかり私の右手首にあった。
時には「赤い輪ゴムを外し忘れているよ」と注意されたり、時には母の逝った日にもあった。
茶会の時など着物の袖から見えるのでテープで腕に貼り留めたりしておおじょうした。
細い糸なのに1年間切れることなくしっかりと手首に付いてくれていたのに、
4月になったある日突然スルリと私の腕から滑り落ちるように切れた。
本当にビックリ!引っ張っても切れなかったのに・・・
思えばそれはやっと私が元気を取り戻した時だった。
赤いこの糸に守られていたのだろうと実感した。

静かに襲うパニック・・・

昨日一人暮らしの娘から電話があった。
東日本大震災の惨状を、テレビやラジオで見て聞いて、
押しつぶされそうに泣いている。
今日若い方々に会ってお聞きしたら同じ様子である。
「テレビをつけるのは今は、一時間に決めています。」
「ただ泪が溢れてくるのです。」
「お風呂に入ると津波を思うのか胸にぐっとくるんです。」
娘の電話で、弱く育ててしまったと思っていたが、
こんなに皆が他の人の災難を自分のことと思える、
優しい人々が住む日本に、この震災!
亡くなった方々のご冥福はもとより、被災地の方々、日本に住む人々の
安全を小さな私でさえ、祈らずにはいられない。

老いていくこと・・・


今日はリハビリ一環で、
糖尿病の人たちに、土に触れてもらおうという企画で、
80歳を過ぎた7名の方々が来窯された。
土に触ることは、どんな病にも良いと確信している私です。
誰ですか!土まみれの私の頭は、何故治らないの?って言っている人は!
とにかく我が家に来られた人たちは明るく、ジョークが飛び交い、思いやりがあり、
心の元気な人ばかりでした。
年をとると我がままになったり、孤独になったりと
人間って成長しない者なのかなぁ・・と少し暗く先を見ていた私でしたが、
今日来られたお年よりを見ていて、病気一つくらいは持っていても、
その日その日を輝いて過ごしていける事を学んだ私でした。